幕間









頭が痛い。
体が重い。
意識が朦朧とする。
何も……考えられない……。






……
………
…………
……………

匂いがする。
口が渇いている。
白い天井が見える。
柔らかい感触がする。
複数人の声が聞こえる。





―――――よく分からない。








何か薬品のようなにおいがした。
おそらく消毒だろう。
病院のにおいを思い出す。
少し不快だ。

口の中が乾いていた。
何も飲んでいないかのように。
ベタベタもしない。
何か飲みたい。

天井が見えた。
白い天井。
シミ一つない。
見たことがない天井。

体の下がふわふわしていた。
多分布団に寝ているんだと思う。
自分の部屋の物ではない。
心地よい感触。

人の声が聞こえた。
おそらく男の声だと思う。
一人ではなく複数の男。
何かを喋っているけど、内容は良く聞こえない。





ここは何処だろう?
周りを見たいけど体が動かない。
酷くだるい。
見えたのは白い空間だけだった。
自分がどこかに寝ていることだけが分かる。

「………………」
「………………」

人の声が聞こえた。
少しずつこちらに近づいてきているようだ。
何人かは分からないけど一人じゃない。

「……ラブルはないのか?」
「…ええ、順調です」

ドアが開く音が聞こえたと思ったら、人の声も良く聞こえるようなった。
どうやらここはどこかの部屋のようだ。
見たこともない天井だから自分の部屋ではないと思うんだけど。

首が動かないので、何とか目線だけを声が聞こえた方向に動かす。
二人の男だ。
初老の男と若い男。
二人とも白衣を着ている。

おれに背を向け何かを話している。
耳を澄ましても聞こえない。
こっちに近づいてくれないかな。

ずっと耳を澄ましていてもしょうがないから周りを見てみる。
真上には天井とライトしか見えない。
人がいた方向と逆を向くと窓が見えた。

ガラス張りの窓だ。
目が霞んでよく見えない。
ぼんやりとガラスの向こうに見えるのは……大勢の人。
こちらを観察しているようで気味が悪い。

少し楽になってきたので目線を下に向けてみた。
見えたのはシーツにくるまれた体と、シーツから出ている腕。
腕には何やらコードが繋いである。

さっきまでは分からなかったけど、どうやら体中に繋いであるようだ。
顔やシーツの下の体にも感触がある。
これは何なんだろう?

「ん?」
「どうした?」
「バイタルに少し変化が」

部屋の中にいる男達が何か喋っている。

「本当だな、どれ」

一人がこちらに近づいてくる。
声の感じからして初老の男だと思う。
足音がだんだん大きくなる。

「どうですか? 彼の様子は」

またドアが開く音がした。
誰かもう一人入ってきたようだ。
たぶんその人も男。

「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
「どうも失礼します、順調ですか?」
「ええ、もちろん」

こちらに近づいてきた男が足を止めた。
入ってきた男と話をしている。
二人の足音が聞こえた。
二人してこちらに近づいてきているようだ。

「ご機嫌いかがですかっと、おや?」

一人がおれの顔をのぞき込む。
ぼんやりとしてよく見えない。
でも、どこかで見たことがあるような……。

「どうされました?」
「彼起きてるんじゃないですか?」
「何ですって!?」

初老の男の慌てた声が聞こえた。
さっきの男と並ぶようにおれの顔をのぞき込む。

「本当だ!? おい、注入しろ!」

その声と同時に空気が抜けたような音がして、コードの一つから何か流れ込んだ気がした。
また体がだるくなる。

「おやすみ悠司君」

まだ顔をのぞき込んでいる男がおれの名前を呼んだ。
知り合いだろうか。
誰だろう。

どこかで見たような顔。
いつも見ていたような。
すぐ近くにいたような。

声を出したいけど、口が渇いて声が出ない。
体がだるくて顎が動かせない。
あなたは誰ですか?

じっと男の顔を注視する。
少しずつ顔が見えてきた。
この人は。
この人は……。

「た……」
「良い夢を」

頭が痛い。
体が重い。
意識が朦朧とする。
何も……考えられない……。

……………
…………
………
……






―――――よく分からない。

















「……いさん、兄さん」

体が揺さぶられる感触と女性の声が聞こえる。
目を開けると目の前には心配そうな顔をしたリリーがいた。

「リリー……?」

彼女がそんな顔をしている理由が分からないので、ぼんやりとしながら名前を呼んだ。

「兄さん、大丈夫?」
「大丈夫って?」

彼女は何をそんなに心配しているのだろう。
何かあったのだろうか。

「うなされてたから……」
「うなされてた? おれが?」

リリーはこくんと頷いた。
おれがうなされていた?

「大丈夫だよリリー、少し悪い夢を見ただけだから。先に下に降りておいで」
「はい……」

安心させるように言う。
彼女はまだ心配そうだったが、部屋を出ていった。

おれがうなされていた?
悪い夢を見た?

そう、たしかに何か見たような気がする。
何だったかな。
良く思い出せない。

知らない人がいたような。
知ってる人がいたような。

頭が痛い。
体がだるい。








―――――よく分からない。




















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