第4話 「家族が増えた」










依頼が済み、役所へ報告へ行く。
担当のニワトリ男と一緒にもう一度館へ行き、簡単な点検を受ける。
運び出したものは数台の馬車を使い移動。
悠司はニワトリ男と一緒に館を回り説明をする。

「大丈夫そうだね」

一通り点検が終わり悠司と一緒に出てきたニワトリ男がいう。
彼は書類を取り出し何か書き込み、それとペンを悠司へ渡す。

「じゃ、ここにサインして」
「はい」

悠司は書類へサインをする。
それを受け取りチェックする男。

「依頼は完了ということで、じゃあこれ」
「ありがとうございます」
「ではお疲れさま。また何かあったらよろしく」

チェックが終わった男は悠司に紙の束を渡し去っていく。
これにて依頼は完了。
それを受け取り男を見送る。
男が立ち去ったのを確認し、悠司は建物の影へ声をかける。
影から二人の女性が出てくる。
金色の髪のユーリィと、白い髪の遺跡で見付けた少女だ。
ユーリィが悠司へ声をかける。

「よかったの? この子のこと黙っていて」
「いいんじゃない? 正直に説明することもできないでしょ」
「そうだけど……」

ユーリィは傍らに立つ少女を見る。
少女はただぼーっと悠司を見ている。

















「ホムンクルス?」

事情を聞いたユーリィが放った言葉は悠司には聞き覚えのないものであった。

「たぶんね。その子は古代文明の遺産、人工生命体≪ホムンクルス≫よ」

始祖セント・エルナンデスがマカラリア大陸中央部のタルマスへ降臨した、約3000年前。
その時点から今の文明は始まったといわれている。
しかし世界中には明らかにそれ以前に何らかの文明があったという痕跡がある。
製造方法だけでなく、中には使用方法すらわからない、いわゆるオーパーツといわれるもの。
明らかに現代の技術では再現不可能な建造物。
それらの存在がすでに失われた何かがあったと示している。

「この子がその内の一つっていうこと?」
「まぁ私は専門じゃないから分からないけどね。明らかにこの遺跡とかあの道具とか普通じゃないもの。大体あなたどうやってあれを動かしたの?」

すでに音も光りもない機材を指さすユーリィ。
ユーリィの言葉に、流石ファンタジー何でもありだな、と考えていた悠司は答える。

「触ったら動いた」
「いやいや」

それで動いたら世界中の学者が苦労しないわよ、とユーリィは機材に近づきを弄くり回す。
しかしそれらはうんともすんともしない。
ほらね、とでもいうように振り向き肩をすくめるユーリィ。

「まぁそれはいいとして、その子どうするの? なんかずっとあなたを見てるけど」

いつの間にか悠司の真横に移動し彼の顔をじっと見ている少女に顔を向ける。
その少女をちらりと見てから一つ頷く。

「まぁ何とかなるだろう。とりあえず依頼完了の報告をしてくる。ユーリィはこの子を連れて適当に隠れてて」

そういって部屋を出ていく悠司。
それを見てユーリィは慌てて少女の手を引き後を追う。

















「で? どうするの?」

そう問いかけるユーリィに一つ頷き悠司は自分を見つめる少女の前に立つ。
悠司は少女の両肩を掴み真面目な顔をする。
側でユーリィが、ユージがこんな真面目な顔をするなんて! と戦いているのを横目に口を開く。

「お兄ちゃんと呼びなさい」
………………
……………
…………
………
……






「死ねぇ!!!」

ユーリィが悠司に指先を向け術を放つ。
高圧縮された空気の固まりが弾丸のように5つ悠司へ向かい飛んでいく。
それを受けるが悠司は何事もなかったのようにそこへ立ち続ける。

「ちぃ! 化け物め!!」
「落ち着けユーリィ、キャラがおかしい」

こうなったら極大破壊呪文を使うしか! となにやら怪しげな呪文を唱えるユーリィを止める悠司。

「はっ!? 兄さんを思いだしてつい……」
「アレクさんか、あの人はなかなかの御仁だった……」

どうやら兄に何らかのトラウマじみた思いがあるようだ。
我に返るユーリィと何か思いだしてしみじみとする悠司。

「兄さんはどうでもいいのよ! で、何であんなこと言ったの?」

話を戻そうとするユーリィ。

「いや、そのまま報告をするわけにはいかないだろ? なら家族として面倒を見ようかな、と」
「そりゃ報告するのはかわいそうだけどだけど……」

現在確認されているホムンクルスの数はわずか3体。
それらの全てが実験動物や見せ物のような扱いをされている。
さすがにこの少女をそんな目にあわせるのは不憫だと感じているためにユーリィは口ごもる。
でも、と現実的な問題点を口にする。

「あなた宿屋住まいでしょ? 急にその子を連れて行ったら怪しまれるんじゃない?」

そう、今現在悠司は宿屋に長期滞在している状態なのだ。
いくら仕事をしているからといって、そこまで高給取りではない悠司が、わずか半年で自分の家を持てるはずもない。
宿屋という大勢の人が住む空間で一人同居人が増えたことを見つからないようにするのは困難だ。
見つかればいくらかは追求を受ける。
そうなればいつかはボロが出るだろう。

「問題ない、これを見るがいい」

悠司は先ほどニワトリ男から受け取った紙束をユーリィへ渡す。
その自信ありげな様子に訝しみながらそれを受け取り見る。

「何これ? えっと……権利書?」

それは権利書だった。

「そう、この館の権利書」
「この館の? なんでそんなもの持ってるのよ」

それを持っている理由がわからず首を傾げる。

「今回の報酬」
「は?」
「今回の仕事の報酬」
「ええ!?」

その理由にユーリィは驚く。
豪邸というわけではないが、一般市民が住むには明らかに過剰な広さをもつ洋館。
そんなものが報酬というのはギルドでBランク任務を果たした報酬に等しい。
ギルドは魔物退治など危険な任務を斡旋する場所で、その報酬は危険性に応じて高い。
ちなみにBランク任務は熟練の戦闘者でも単独で成功させる確率は2割を切る。
普段の仕事より多少危険だったとはいえあまりにも報酬が良すぎる。

「なんでこんなものが報酬なわけ?」

ユーリィが不思議に思い悠司へ尋ねる。

「なんか建物自体はどうでもいいらしいよ、中を早めにどうにかしたかったみたい」

訃報を聞きつけた他の錬金術師達が集まり荒らされてしまうかもしれないので、早めに何とかしたい。
そこで急遽悠司に白羽の矢がたった。
これはいきなりな依頼を申し訳なく思ったお詫びも含めているという。
さらに不必要な建物は放置していると獣などが住着き荒れてしまうかもしれない。
しかし壊すにもお金がかかる。
管理する余裕もない。
特に活用する目処もない
ならば誰かにあげてしまえ、ということで悠司への報酬となった。

「その代わり役所からの依頼は3割引で受けることになった」

まぁそれくらいならいいけどね、という悠司。

「それでも条件良過ぎない?」
「まぁこっちが損してるわけじゃないし」
「そうだけどねぇ……」

大丈夫なのかこの町、とユーリィは自分に住んでいるところが多少心配になった。
しかし一つ疑問が上がる。

「地下の遺跡のこと知らないのかしら?」

古代文明の遺跡はいくつかの例外を除き、ほぼ全てが発見された国にその所有権がある。
今回は遺跡だけでなく、ホムンクルスというおまけ付きだ。
もし知っていれば放置することなどないだろう。

「まぁお国柄的に詳しい調査なんてしないだろうし、近くにカマルの森っていう保護区域があるんじゃ地下のものなんて見付けられないんじゃない?」

ジュヌブス連邦は大陸で最も多種の民族が住んでいる。
その中のエルフや獣人などは自然崇拝に近い理念をもっている。
また、カマルの森はマナが他の場所より豊富な森である。
中にはいることや果物、薬草などの採取は禁止されていないが、生態系や場を乱す行為は禁止されている。
そういった理由もあり詳しい調査などはされない結果、遺跡が発見されることがなかったらしい。
ここに住んでいた錬金術師は何らかの理由でたまたま発見し、その上に館を建てたのだろう。
それを報告しなかったのは自身の好奇心を満たすためか手柄の独り占めを狙ったのか、死んでしまった今理由はわからない。

「とにもかくにもここの所有権はおれが持っている。何の問題もない」
「問題ないって……ばれたら大変よ?」
「大丈夫だろ、少なくとも20年はばれなかったみたいだし」

呆れた様子のユーリィに気にもとめない悠司。

「いっても無駄みたいだし住むことはそれでいいとしても、あなた女の子と二人きりで住むつもり?」

やけに自信満々な悠司に忠告することが馬鹿らしくなったのか、とりあえずそのことは諦めることにしたらしい。
しかし女性と二人きりで住むことに不安を覚えたユーリィは悠司に薄目をむける。
それを悠司は鼻で笑い、言い放つ。

「義理の妹と二人での生活だぞ? 手を出さないからどきどきが楽しめるんじゃないか」

なにやら拘りがあるらしい。
何を当たり前なことを、とでもいわんばかりの態度に脱力する。

「もう意味がわからないわ……」

そういいユーリィは肩を落とす。
そんなこんなで悠司に妹ができた。


















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