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 魔法学院の一角を、黒いマントを羽織った若い男が歩いている。
 男は石造りの廊下を、身分の高い者だけにあてがわれている客室に向かって足を進めていた。
 左右に並ぶいくつかの扉を横目に少し進み、彼のために用意された部屋に着くと、一度左右を見渡し中に入った。

 広々とした部屋の中には、やはり貴人を迎えるために飾り付けがされてある。
 さすがにアンリエッタの部屋ほどではないが、室内はそれなりに裕福な貴族の屋敷の寝室と比べても遜色がないほどに、豪華なデコレーションに凝っていた。
 扉の横にある帽子掛けにかぶっていた羽帽子を掛けると、マントを脱ぎながら部屋の片隅にある棚からグラスを取る。
 そして腰に差してあるレイピア型の杖を抜くと、ルーンを唱え空気中の水分を集めグラスに水を注ぐ。
 ベッドに腰掛けながら一口飲むと、脇あるサイドテーブルにグラスを置き、一息ついた。

 ちらりとテーブルに乗っている小さな人形を見ると、すぐに視線を外し、彼以外誰もいない部屋の中で、男は虚空をぼんやりと見つめた。
 感情を窺えるほどの表情はないが、どこか考え事をしているように感じさせる雰囲気を纏っている。
 事実男は考え事をしているのだ。

 彼の頭の中にはある少女が浮かんでいる。
 周りの誰も気づいてはいないようだったが、彼だけが感じていた不可思議な才能を秘めた少女。
 まだ男が十代であった頃、領地が隣ということもあり彼女の家とは親しい付き合いをしていた。
 父が死に彼が領地を継いでからは、彼自身の職務が忙しく疎遠になっている。

 最後に会ったのは、もう十年ほど前にもなるだろうか。
 彼の記憶にあるのは、母に叱られ一人泣いていた幼い少女の姿。
 池に浮かんだ小船に小さな体を丸め、自分を捜し回る使用人から隠れていた彼女を抱き上げあやした。

 男は自嘲気味に口元を歪める。
 自惚れでなければ、おそらく彼女は自分に淡い憧れを抱いているだろう。
 そんな純真無垢なか弱い少女の才能を、自分勝手な野望のために―――

『ご加減はいかがですか?』

 男以外いないはずの部屋に、女性らしき声が響いた。
 女性にしては低めの、どこか不気味な声。
 不意打ち気味にかけられた声に、男は慌てた様子もなく、テーブルに置かれた人形に視線をやる。

「ああ、とくに問題はないよ、ミス」
『それはなによりでございます』

 声は人形から発せられていた。
 男は人形に向かって感情のない声色で話しかける。

「何のようかな?」
『いえ、その後計画の方はどうなっているものかと思いまして』
「まだ何ともないよ」
『そうですか』

 そっけない男の言葉に、女性もまたそっけなく答えた。
 男は若干眉をひそめる。

「何か問題でも?」
『いいえ、問題はございません。しかし出来る限り早めにしてほしいとは思います』

 女性の言葉に男は不機嫌そうに鼻をならす。

「ああ、分かっている。もうそれほど時間もなさそうだしね」
『それならば心配はいらないようですね。我が主も子爵の成功を祈っております』
「ありがとう」

 声に感情を乗せずに礼を言う男に、女性は低く笑った後、言葉をかける。

『では今夜はこの辺りで失礼させていただきます』
「ああ、心配かけてしまったようですまないね」
『いえ、また連絡させていただきます。ではごきげんよう』

 その言葉を最後に、人形は沈黙した。
 男はその後もしばらく人形を見つめていたが、数分も経つと舌打ちし、目を背けた。
 グラスを持ち上げ一口飲むと、ベッドに身を投げ目を瞑る。

 奇妙な女だ、と男は思う。
 数ヶ月ほど前に初めて顔合わせをした、彼の男の秘書だと名乗った女。
 今まで男も見たことがなかったような不思議なマジックアイテムを所有し、それらを見事に操っていた。
 どこからか自分の計画を嗅ぎ当て、それに協力をしようと言ってきたのだ。
 目深にかぶったフードのせいでよく顔は見えなかったが、わずかに覗く口元は円を描き、自分の目的を何かに利用しようとしているのが察せられた。

 ―――まぁ、いい。

 あちらが自分を利用しようというのなら、こちらも存分に利用させてもらうまでだ。
 男はうっすらと笑うと、もう一度幼い少女の顔を思い浮かべ、眠りについた。

















 アンリエッタ魔法学院滞在3日目、現在の時刻はまだ昼前。
 アレクは本塔の正面玄関前にて、一人ポツンと立っていた。

 普段なら授業時間中のため人気がない本塔前の広場も、アンリエッタが行啓するにあたり学院が休校状態になっているので、ちらほらと生徒の姿が見えた。
 建前上部屋から出てはいけないことになっているが、教師たちも生徒が大人しく部屋で勉強するはずもないと分かっているため、学院の敷地内であれば外出は可能である。
 広場にいるのは、友人と談笑している者、使い魔と戯れている者、魔法の見せ合いをしている者など様々だ。
 それらのうちの一組の会話に何となく耳を傾けながら、人を待つアレク。



「なぁギーシュ」
「なんだい? マリコルヌ」

 コロコロした体型の生徒が、同学年らしい胸元をやけに開いたシャツを着ている少年に話しかけた。

「僕は昨日初めて姫殿下を拝見したんだが、噂どおり美しいお方だな」
「ああ、まさに『トリステインに咲く一輪の花』だ。あれほど高貴で優雅な美しさを持っているお方は他にはいまい」

 ギーシュはその姿を思い浮かべたのか、夢を見るような表情になり、どこからか取り出したバラを銜えた。
 それはいつものことなのか、マリコルヌは特に気にした様子もなく話を続ける。

「それでな、僕ちょっと思ったんだ」
「ほう? 何をだね?」
「うん……」

 ギーシュの問いにマリコルヌは重苦しい顔になり、しばし口を閉ざす。
 友人の顔から窺えるいつにない真剣さに、ギーシュは息を呑んだ。
 実際には1分と経っていないだろうが、体感時間としては数十分にも及ぼうかという沈黙の後、マリコルヌはその口を開く。

「―――どうしたら、踏んでもらえると思う?」

 その言葉にギーシュは一つ頷くと、一度空に顔を向けた後、マリコルヌに視線を戻す。

「もう一度言ってくれるかい?」

 仕方ないな、とでもいうように首を振ると、マリコルヌはもう一度言った。

「どうしたら僕のことを踏んでくれると思うか聞いているんだ」

 己の聞き間違いではなかったことを確認すると、ギーシュはさらに問いかけた。

「それは殿下が、ってことだよね?」
「もちろんだ。さすがに君に踏んでもらおうなんて、いくら僕でも思わない」
「ああ、なるほど。少しはおかしいという自覚はあるようだね」

 腕を組み頷くギーシュ。
 しかし問題は解決していない。
 マリコルヌは確かに以前からなかなかの男ではあったが、これほどの域には達していなかったはずだ。
 いったい何が彼をここまでの領域に押し上げたのか。
 それを解明せねばなるまい。

「なぜ急にそんなことを考えたんだい?」
「ああ……ほら、サイトいるだろう? 君が甚振ろうとして返り討ちにあった男だ」
「余計なお世話だ」

 ギーシュは以前自分と決闘した男を思い浮かべる。

「ミス・ヴァリエールの使い魔の少年だね? 彼がどうしたんだい?」
「そう、そのミス・ヴァリエールだ」

 マリコルヌはさらに意気込み、身を乗り出した。
 血走った彼の目を間近に見たギーシュは、わずかに身を引きながら話の続きを促す。

「僕はよく彼女のことを、『ゼロ』のルイズなどと馬鹿にしていた」
「うん、そして爆破されていた」
「しかし何、魔法の才は別とすると、彼女はとてもすばらしい女性だ」

 ギーシュの野次をスルーして話を続けるマリコルヌ。
 彼の言葉はギーシュとしても頷けるところだ。
 十分に美少女と呼べる容姿、公爵家三女という身分の高さ、魔法の実技を抜かした成績の優秀さ。
 総合して見ればかなりすばらしい女性だ。

「ああ、確かにね。それで?」
「で、サイトに戻るんだが。彼……よく踏まれているだろう?」

 確かにサイトはお仕置きという名目で、よく踏まれていた気がする。

「それを見て思ったんだ、『ああ、僕も踏まれてみたい……』ってね」
「うん、なかなか飛んだね」

 なぜか肩をすくめてさわやかに言うマリコルヌに、ギーシュは突っ込みを入れた。
 その突っ込みに、マリコルヌは眉をひそめる。

「どこが飛んだというんだ、とても自然なことだろう?」
「僕には君の言っていることが分からないよマリコルヌ」
「ふん、グラモン家の血も末っ子となると薄まるようだな」

 マリコルヌは鼻をならし、挑発するように言った。
 そのマリコルヌの言葉に、ギーシュは片眉を持ち上げる。

「何だと? それはもしかして喧嘩を売っているのかい?」
「おや? 図星を指されて怒ったのか?」

 重ねて挑発するマリコルヌを睨みつけ、ギーシュは立ち上がる。

「ほう……『食べすぎ』のマリコルヌのくせにいい度胸だ」
「一文字も合ってないじゃないか! 僕の二つ名は『風上』だ! 『食べすぎ』でも『太りすぎ』でもない! 二度と間違えるな!」
「いや、『太りすぎ』は言ってない―――」
「問答無用! くたばれ、ギーシュ・ド・フェロモン!」
「それ悪口になってるのかいッ!?」



 結局、なぜアンリエッタに踏んでもらいたいのかよく分からないうちに、マリコルヌの逆切れで終わった会話を気にしつつ、アレクは前方に目をやった。
 彼の視線の先には、待ち人である3人の生徒が、自分たちの使い魔を連れて歩み寄ってきているところであった。
 そのうちの一人、桃色がかったブロンドの少女がアレクに気づき、駆けてくる。

「アレク!」

 その少女――ルイズ――が自分の目の前まで来ると、アレクは笑顔を浮かべ頭を下げる。

「お待ちしておりました、ルイズ様」
「ええ、姫さまは?」
「学院長室にて、オスマン学院長をはじめとした数名の教師の方々とお待ちになっていらっしゃいます」

 そうしてルイズと話していると、彼女の使い魔であるサイトが小走りでやってきた。
 アレクは彼に向かって片手を上げる。

「や、こんにちわ」
「ども、昨日ぶりですね」
「ああ、それは秘密で。ばれたら怒られるから」

 アンリエッタの頼みとはいえ、護衛の目を盗んで抜けだしたことがばれるとまずい。
 王女である彼女を面と向かって叱責できる者などトリステインでも一握りしかいないため、自然その矛先はアレクにくるのだ。
 もちろんそうなっても、自業自得だが。

 アレクの頼みに、サイトは若干不思議そうな顔をしながらも頷く。
 ついで、サイトの背後から2人の生徒の姿が見えた。
 一人は浅黒い肌に赤い髪をした学生にしては大人っぽい女性、もう一人は逆にルイズたちと同年代とは思えないほど小柄な少女。
 それぞれサラマンダーと風竜を従えながら、歩いてくる。
 その内の赤い髪をした女性が、アレクを見てからルイズに声をかける。

「あら、ルイズ。そちらの殿方はお知り合い?」

 話しかけられたルイズは、いささか憮然とした面持ちで返す。

「ええ、そうよ。姫さまの従者」
「ふーん……」

 赤い髪の女性はそういってアレクのことを一通り見ると、視線を外した。
 その動作にルイズは訝しげに声をかける。

「おかしいわね、キュルケ。アンタのことだから、またすり寄っていくかと思ったんだけど。何か企んでるの?」
「あら失礼ね、私は一途な女なのよ。ねぇダーリン?」

 そう言うとキュルケと呼ばれた女性は、サイトの腕にからみついた。
 思わず鼻の下を伸ばすサイトを見て、ルイズは二人に怒鳴りつける。

「ちょっと、腕を放しなさいよ! アンタもデレデレしてんじゃないわよ!」

 騒がしくなる3人を横目に、アレクは残った一人に目を向ける。
 そこにいるのは、今回アレクが学院に来る際、マザリーニから接触するように言われた人物。
 昨日の品評会でも最優秀を取った青い髪をした少女タバサが、わずかに目を細めてアレクを見ていた。
 もしかしたら自分のことを覚えているのだろうか、とアレクは考えると、意識的に笑みを深め、タバサに笑いかけたが、彼女は特に反応はしなかった
 内心考え事をしながらタバサから視線を外すと、姦しい3人に向かって手を叩く。
 3人の意識が自分に向いたのを確認すると、ゆっくりと頭を下げ自己紹介を始める。

「私はアンリエッタ様の従者を務めさせていただいている、アレクサンドル・シュヴァリエ・ド・サン・ジョルジュと申します。お三方はそれぞれ、ミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプトー、ミス・タバサでよろしいですね?」

 すでに顔は把握しているが、形式的に尋ねるアレク。
 3人がその問いに頷くのを確認すると、アレクはキュルケとタバサに一度ずつ視線を向ける。

「お二人は初めまして、ですね。どうぞよろしくお願いいたします」

 目を向けないようタバサの反応を窺ったが、彼女はピクリともしなかった。
 そういう訓練もされているのかもしれない。
 そう考えたアレクは、とりあえず当面の仕事を済ませることにする。

「では、こちらへどうぞ。学院長室にてアンリエッタ様がお待ちになっております」

 そう言って3人を先導しつつ、本塔に足を向ける。
 男子生徒が騒いでいる、と途中で衛士に告げ口してから。





 内々に、ということでそれほど格式張ったこともせず、拍子抜けするほど簡単に3人へ報賞与えると、アンリエッタは彼女らを昼食に誘った。
 王女の昼食に陪席することなど、並の貴族では叶わない栄誉にルイズは喜んだが、表面上はともかくキュルケとタバサは内心あまり気乗りしない様子であった。
 さすがに断ることはしなかったため、教師等も交え食堂へ移動する。

 アンリエッタが来ているせいか、心なしかいつも以上に豪華絢爛な『アルヴィーズの食堂』は、昼食時にもかかわらず、生徒たちの姿は見えない。
 それはアンリエッタのためにこの時間の食堂を借り切り、生徒たちの食事を遅らせているからだ。
 三列に並んだ長いテーブルの真ん中に、それぞれ座る。
 上座にはアンリエッタが座り、それにオールド・オスマン、教師陣と続き、ルイズ等3人が入る。
 ちなみに彼女たちの使い魔のうち、サイトはルイズの後ろに控えているが、さすがにキュルケの使い魔であるフレイムと、タバサの使い魔のシルフィードは外にいる。

「それにしても、彼の『土くれ』を捕らえるとは、さすがトリステインが誇る魔法学院の生徒ですわね」

 昼食を取りながら談笑していた最中、アンリエッタがふと思い出したように呟いた。
 オスマンは好々爺とした表情で髭を撫でながら、それに応える。

「殿下にお褒めいただけるとは、嬉しい限りですな。しかしまんまと学院に進入させたばかりか、その尻拭いを生徒に任せるとは、私ら教師としては恥ずかしいものですじゃ。のう?」

 そう言ってオスマンが教師陣に目を向けると、彼らは一様に目をそらせた。
 彼らの様子を気にもせず、アンリエッタは笑みを浮かべたまま話を続ける。

「恥ずかしながら、私そのことについてよく知りませんの。どういった状況だったのでしょうか?」

 アンリエッタの問いかけに、オスマンは飄々と答える。

「申し訳ありませんが殿下、それは殿下にお聞かせするほどのことではないかと。何より私どもとしては恥をさらすようなことですのでな」
「あら、いいじゃありませんか。ねぇルイズ、聞かせてくれるかしら?」

 オスマンが話すがないことを見て取ったのか、アンリエッタはルイズに矛先を向けた。
 彼女はまさか自分に声がかかるとは思っていなかったのか、狼狽する。

「あ、いえ……その……」

 ルイズはオスマンをチラチラ見ながら口ごもった。
 続けて問いただそうと口を開きかけたアンリエッタを遮るように、オスマンが彼女に声をかける。

「殿下、どうかご勘弁くだされ。先ほど申し上げましたとおり、恥の上塗りになりますのでな」

 どうやら彼は話す気はないようだ。
 先ほどの様子から何か隠しているらしいことは分かるのだが、さすがに王女としての権限を振りかざして無理矢理聞き出すのも良くない。
 そう考えたアンリエッタは、一度引くことにした。

「分かりました、そこまで言うのならこの話はやめにしましょう。その代わりといってはなんですが……宝物庫を見せていただけますか?」
「ほ? それはまたどういう……」

 目を丸くするオスマンに、アンリエッタは何でもないように笑いかける。

「特に意味はありませんわ。せっかく魔法学院の来たのですから、どうせなら噂に名高い宝物庫を見せていただけないかと思いまして。以前から興味がありましたので」

 彼女の思惑を探ろうとしているのか、オスマンはしばし無言でアンリエッタを見つめたが、また善良な老人らしい笑みを浮かべると、特に反論するでもなく頷いた。

「殿下たっての頼みとあらば、お断りはできませぬな。昼食後ぜひ案内をさせてくだされ」
「まぁ嬉しい! 感謝しますわ、オールド・オスマン」
「ほっほっほ、そう喜んでいただけると、この爺も年甲斐もなく嬉しくなりますでの」

 そんな二人の会話を、ルイズは首を傾げつつ、キュルケは退屈そうに、タバサは無感動に聞いていた。
 アレクはアンリエッタの後ろに立ち、「また何か企んでるのか?」と頬を掻きながら考え、同時にタバサにそれとなく意識を向けている。
 その後は特に不自然な会話もなく、平和に昼食を進めた。





 昼食を終え、約束通りアンリエッタが宝物庫見学をしている時、アレクは彼女の部屋に足を進めていた。
 明日の昼前にはここを出ることになっているので、ぼちぼち本格的に帰り支度を始めなくてはならない。
 とはいってもすでに大凡のところを終えているだろうと思われるので、アレクがやるのは簡単な点検くらいになるだろう。

 今の時間帯になると生徒たちも朝食を取っているのか、周りには人気がなかった。
 遠くからわずかに聞こえてくる人の声を聞きつつ足を進めるアレクの耳に、何か巨大な生物が羽ばたく音が聞こえた。
 その音に反応し、空を見上げるアレク。
 彼の視線の先には、風竜が優雅に空を飛んでいた。
 つい先ほど見たばかりの幻獣の姿を捉え、わずかに緊張に身を固めるアレクに、後ろから声がかけられる。

「トリステイン王女アンリエッタの従者、騎士アレクサンドル」

 まだ幼さを残す少女の声。
 アレクは前を向いたまま、その人物に声をかける。

「あなたの方から声をかけてくれるとは思いませんでした」
「あの時あなたは男爵家の次男と名乗った」

 アレクの言葉に答えることもなく、話を進める少女の声。
 彼は苦笑いすると、ゆっくりと振り向く。

「お久しぶりです、ガリア花壇騎士タバサ殿」
「―――あなたは、誰?」

 アレクの視線の先には、杖を握りしめたタバサが立っていた。




















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