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 魔法学院の広場に設置されたステージ。
 そこでは今、この日のために練習を積んできた学院生たちが、己の使い魔と共に様々な芸を披露している。
 フクロウ、カラス、猫といった標準的なものから、数メイルはある大きな蛇、六本足のバジリスク、大きな目の玉のバグベアーなど、種種雑多な使い魔たちによる芸は、なかなか見応えがある。
 もっとも、中には持ち時間中、ずっと使い魔であるジャイアントモールと共に薔薇の絨毯の上に寝そべっているだけという、わけの分からないものもあったが。

 ステージ横にはアンリエッタのためにテントが組まれ、彼女はそこで傍らに座るオスマンと談笑しながら、楽しそうに観賞している。
 あくまで学生である以上、アンリエッタを満足させられる芸などそうそう見せることができるわけもないが、祭りのような雰囲気が彼女を楽しませていた。

 アレクはテントの外に並んでいる他の使用人たちに紛れるように立ち、わずかに眉を寄せながら、しかつめらしい顔で品評会を眺めていた。
 視線は確かに舞台に向いてはいるが、どこか気のない表情が見受けられる。
 時折口の中でうなるような声を出しつつ、何か考え事をしているようであった。
 彼の頭にあるのは昨日の出来事、『ヒラガサイト』と名乗った少年との邂逅の記憶である。

 結局あの後は、まともに会話もできなかった。
 聞きたいことはいろいろあったが、いきなり知らない人物に根掘り葉掘り自分のことを聞かれるのは、サイトが良い気がしないであろうし、怪しまれてしまうとアレクは考えたので、何気ないように話しかけようとしたのだが、どうにもうまくいかなかった。
 突然の出会いにアレクがいささか動転してしまい、とっさに良い言葉がでなかったのだ。
 何と声をかければいいか、とアレクが悩んでいるうちに、シエスタがサイトを引っ張っていってしまった。
 引きとめようかとも思ったが、自分も早くアンリエッタの元へ戻らなければならないことを思い出したアレクは、その場は渋々と諦めたのである。

(ヒラガは「平賀」でいいのか? サイトは……「才」に「斗」? それとも「人」か? なんにせよ日本人だとは思うけどなぁ……)

 おそらく日本から来たのであろう少年。
 服装といい容貌といい、ほぼ間違いはないだろうとアレクは考えている。

(問題はどうやって来たか、か)

 アレクが今まで見聞きした異世界からの来訪者といえば、タルブ出身であるというスカロンの祖父のみである。
 自分とミシェルもそうだともいえるかもしれないが、ちょっとサイトとはケースが違うので除外する。
 しかしスカロンの祖父は、ある日東から飛んできたという話だったので、どうやってこちらに来たのかは分からない。
 他に異世界から来訪したものといえば、トリスタニアでたまたま見つけた、メイジに召喚されたといっていたあのインテリジェンスアイテム。

(召喚?)

 ふと何かに気づいたように、アレクはわずかに首をかしげた。
 アレクの顔は、目の前のステージ周辺に向けられている。
 彼の視線の先には、魔法学院生とともにいる様々な生き物―――この春、『召喚』された『使い魔』たちだ。

「まさか、なぁ……」

 思わず口に出してしまった。
 少し慌てて左右を見回し、誰も聞いていなかったことを確認すると、突飛な自分の考えにアレクはうっすらと苦笑いを浮かべる。
 人が使い魔として召喚されたなどという話は聞いたことがない。
 前例が確認されていないからありえない、というつもりはないが、それが起こりうると確信できるデータなどさらにないので、その可能性は除外するべきだろう。
 そう考え、アレクはわずかに首を左右に振ると、また頭を捻り始める。

 しかし、いくら考えたても正確な答えらしきものは見いだせない。
 やはり直接聞いてみるしかないか、とアレクはため息をつく。
 アレクは地面に視線を落とし、どうやって接触すれば良いのかを考え出す。
 すると、不意に生徒たちの歓声が上がった。
 その声にアレクは我に返り、ステージに視線を戻し、わずかに目を見開く。

 アレクの視線の先、会場の上空のそれほど高くない位置を、風竜が悠然と飛び回っていた。
 それは何の工夫もなく、ただ竜が飛んでいるというだけの光景であったが、他の使い魔たちによる芸よりも、何倍もインパクトがある。
 今まで見ていたものでは、サラマンダーによる炎の演舞が一際目立っていたが、やはり幼生であっても竜種は別格といったところか。
 しかし、アレクが注目したのは使い魔ではなく、召喚主であるメイジである。

 青い髪の小柄な少女。
 自身の体と不釣り合いな長い杖を持ち、眼鏡の奥に見える髪と同色の瞳はどこを見ているか分からない。
 何の感情も窺えないどこか人形めいた印象を感じさせる人物は、アレクがかつてガリアで出会ったタバサ、その人であった。

 彼女の姿を視認したアレクは、思わず右手を頭にあてた。
 マザリーニから依頼されたことを思い出したのだ。
 忘れていたわけではないが、サイトのことに気を取られすぎていた。

 さて、そうなるとサイトと接触することを後回しにせざるを得ない。
 さすがにマザリーニの命に背いてまで、自分のことを優先するなど出来ないだろう。
 ならば問題はタバサといつ接触するか、ということだ。

 アンリエッタが魔法学院にいるのは、明後日の朝までになっている。
 ということは、今日か明日には何とかしなければならない。
 このままでは品評会の優勝はタバサになりそうなので、今日中に接触するのは難しそうだ。
 ならば明日、『土くれ』のフーケを捕らえた3人に報賞をあたえる手筈になっているので、その後にでも―――。

「次は、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールです」

 司会のコルベールという男性教師が次の学生の名を呼んだ。
 アレクはその聞き覚えのある名を耳にし、ステージを見やる。
 横目で見たアンリエッタも、心なしか身を乗り出すようにしていた。
 そして緊張した面持ちで出てきたルイズとその使い魔を見たとき、アレクは目を疑った。

「は?」

 思わず呆けた声を出すアレク。
 ステージ上のルイズは、どこか恥ずかしげに自己紹介し、次いで横にいる使い魔を紹介する。

「使い魔の名前は、ヒラガサイト。種族は―――平民です!」

 会場の生徒たちから笑い声が上がる。
 アンリエッタがいささか不愉快そうに顔を顰めたことを見たオスマンは、教師陣に生徒を静めるように促す。
 アレクは生徒を注意する教師の声を横に、ステージいるルイズの使い魔に注目する。
 黒い髪の16・7ほどのその少年は、確かに昨日会ったサイトに違いなかった。

「本当に召喚されたのか……?」

 アレクの問いに答える者は誰もいなかった。

















 学院のアンリエッタにあてがわれた部屋で、彼女は品評会の様子を楽しそうに語っている。
 アレクは笑顔でそれに相づちをうっていたが、彼の頭の中ではいろいろなことが渦巻いていた。

 品評会が終わり、最優秀を取ったのは、予想通りタバサであった。
 やはりアレクが彼女に接触するのは明日以降になりそうだ。
 ルイズの使い魔であるサイトは、何やらよくわからない剣舞のようなことをして、ルイズに引きずられるように退場した。
 彼の体格からすれば1.5メイルほどもある大剣を振り回すだけでもすごいといえたが、剣舞自体は何ともコメントに困るものだったと言っておこう。

 何にせよ、サイトがルイズの使い魔らしいことが分かったからにはいろいろと考えることができそうだ。
 メイジによって召喚される使い魔というものは、通常ハルケギニアに生息する動物や幻獣の類が喚ばれる。
 今まで人が召喚された記録など残っていないうえ、それが異世界の住人だというのだから尚更だ。
 そもそも異世界の存在自体が一般で認知されていない以上、そういう発想すら起こらないだろう。

 確かめなければならないことだが、ルイズがサイトを召喚したというのは間違いではなさそうだ。
 これはどういうことなのだろうか。
 ルイズになにか特別な才能でもあるのだろうか。
 アレクの持っているインテリジェンスアイテムのことを考えると、元々“サモン・サーヴァント”の魔法にはそういう性質が有り得るのだという可能性もある。
 しかし、それならばもっとそのような話を聞いてもおかしくはない。

 もしかすると、スカロンの祖父も誰かに召喚されたのかもしれない。
 聞いた話では東方から『竜の羽衣』に乗って飛んできた、ということなので、『ロバ・アル・カリイエ』に何か『門』のようなものがあるのかもしれない。
 いや、もしかしたらエルフの住む『サハラ』や、『聖地』から来たのかもしれない。

 アレクはそこまで考えると、息を吐き苦笑いをする。

(『かもしれない』ばっかだな)

 何らかの答えを出すにはデータが少なすぎる。
 やはりサイトに話を聞かなければならないだろう。
 そうなると、やはりどうやってコンタクトを取るかが問題になる。

 ルイズの使い魔ということが判明したことは、接触するにあたって良いことと悪いことがおこる。
 良いことといえばルイズに仲介に入ってもらえるということだろうか。
 幼い頃から知っているアレクの頼みを無碍に断ることはないだろう。
 しかしそれは同時に、ルイズに話を通さなければサイトとまともに接触できないということだ。
 つまり、容易に誰にも聞かれずにサイトと話をすることができない。

「アレク、何か考え事?」

 そんなことを考えていると、アンリエッタが声をかけてきた。
 我に返り彼女を見ると、眉を寄せてアレクを少し睨むように見ている。
 どうやら考え込みすぎて、アンリエッタの話を聞き流してしまっていたらしい。
 心ここにあらず、といった具合のアレクに、アンリエッタはいささかご立腹であった。
 少々慌てて頭を下げるアレク。

「申し訳ありません、アンリエッタ様」
「いいえ、アレクは悪くありませんわ。どうやら私の話がよほどつまらなかったようですからね」
「いえ、そのようなことは……」
「ふん」

 プイッと横を向くアンリエッタ。
 どうやらへそを曲げてしまったらしい。

「アンリエッタ様、どうかお許しを」

 何とか機嫌を直してもらおうとするが、アンリエッタは横を向いたままアレクを見ようともしない。
 なだめすかすように声をかけるが、機嫌は直りそうもない。
 どうしたものか、と頬をかきながら困った顔をするアレク。
 しばらく悩んでいると、アンリエッタが不意にアレクに顔を向けた。
 許してくれたのだろうか、と思ったアレクに、アンリエッタは何か思いついた顔をしてから口を開く。

「アレク、許して欲しい?」

 アンリエッタの表情に、どこか嫌な予感を感じつつも、アレクは首肯する。

「はい。お許しを頂けるなら、これに勝る喜びはありません」
「そう」

 アレクの言葉にアンリエッタは猫のような笑みを浮かべる。

「じゃあ、一つお願いをきいてもらおうかしら」
「願い、ですか?」
「ええ」

 心底楽しそうなアンリエッタに、アレクはいささか顔を引きつらせつつ尋ねる。

「私に出来ることでしたら。して、その願いとは?」
「それはね……」

 そして続けられた言葉に、アレクは「アンリエッタらしい」と思いため息をつく。
 しかしそのアンリエッタの願いは、アレクにとっても好都合といえた。
 そのことをアンリエッタに気取られないように、表面上は渋々といった態度で、アレクは彼女の願いを了承した。





「こ、こここここ、このバカ犬〜〜〜〜〜ッ!!」
「ぅおわッ!?」

 サイトは突如振り下ろされた鞭をギリギリのところで避けた。
 床に叩きつけられイイ音を出す鞭を見て冷や汗を流すと、半ば悲鳴を上げるように目の前の少女に怒鳴る。

「い、いきなり何すんだよッ!?」
「避けんじゃないわよッ!」
「避けるっつーの!」

 サイトの言葉など聞く耳持たずと言った具合に、少女―――ルイズは再度鞭を振り下ろす。

「このっ! このっ!」
「ほっ、とっ、やっ」
「このこのっ! このこのこのっ!! このこのこのこのこのこのこのこ当たりなさいよ〜〜〜〜〜ッ!!!」
「無茶言うなああぁぁぁ!!?」

 バタバタと部屋を走り回る二人。
 追うルイズ、逃げるサイト。
 この春、学院で行われた『使い魔召喚の儀』でサイトが喚ばれて以来、半ば習慣じみてきた光景である。
 30分ほどそんなことを続けていると、体力がないルイズが先にバテたようで、床に膝をつく。

「……っはぁ、もう……何で、避けるの、よ……っ!」
「いきなり、何も言わずに襲ってきたら……はぁ、普通逃げるだろう?」

 ルイズの言葉に、サイトも多少息を荒げながら答える。
 少しの間、二人とも何も言わずに休み、ある程度息が整ってくると、一度深呼吸した後サイトが口を開く。

「で? 何でいきなり襲ってきたんだよ?」

 その言葉にルイズは顔を上げ、キッとサイトを睨み付ける。

「よくも姫さまの前で恥を掻かせてくれたわねッ!」
「恥?」
「品評会のことよッ!」
「ああ……あれか」

 ルイズの言葉でサイトはそのときのことを思い出す。
 そして拗ねるように口をとがらせ続けた。

「しょうがねぇじゃんか、俺人に見せられるような特技持ってないし。第一人間ですから、善良な一般市民ですから、普通は芸なんか見せませんから」
「だからってもっとマシなのなかったの? 任せろっていうから任せたのに」
「お前がパンツ洗いは駄目だって言ったんじゃんか」
「そんなの許すわけないでしょ! 意味わかんないわよ!」

 喧々囂々と言い争いをする二人。
 そんな二人に、どこからか面白そうに笑う声が聞こえる。

「かかかかか! 貴族の娘ッ子、女のヒステリーはみっともねぇぞ?」

 ルイズは声のした方を睨み付ける。
 彼女の視線の先には、わずかに鞘から刀身のぞかせた大剣があった。
 サイトが品評会の際に使用した剣―――デルフリンガーという名のインテリジェンスソードである。
 カタカタと鍔を鳴らしているデルフリンガーに、サイトは声援を送る。

「そうだそうだ、もっと言ってやれ、デル公」
「うるさいバカ犬! ボロ剣も黙ってなさい!」
「おう、ボロ剣たぁヒデェ言いぐさだな。でも黙る、娘ッ子は相棒の主人だかんね。黙ってろって言うなら黙るさ」
「何だよ、使えねぇな」
「これまたヒデェ。でも許す、相棒は相棒だからな」

 やたらと心の広いデルフリンガーの言を無視し、ルイズはなおもサイトに文句を言おうとする。

「大体ね、アンタはいつもご主人様に対する敬意ってもんが―――」

 そこまで言うと、ルイズは不意に声を止めた。
 そして何かに気づいたように、部屋の扉に目を向ける。
 面倒くさそうにそっぽを向いていたサイトも、ルイズの行動を訝しく思い、扉に目を向けた。
 二人が注目する扉からは、ノックの音が聞こえた。
 初めに長く二回、それから短く三回。

「まさか!」

 ルイズはハッとなり扉に駆け寄り、開け放つ。
 そこにいたのは二人の人物。
 シルエットから見るに、手前にいるのが男、後ろにいるのが女だろう。
 二人ともフードをかぶり、顔が見えない。

 手前の男は後ろの女を促し中に入れ、一度部屋の外を窺うと扉を閉めた。
 そして杖を取り出すと、部屋の中に魔法をかける。
 その魔法に思い当たったルイズは、わずかに呆然としたまま呟く。

「……ディティクトマジック?」

 ルイズの言葉に、男はフードを外しながら答える。

「念のため、です」

 フードの下から現れた顔は、ルイズも良く知っている人物であった。
 半ば予想してはいたが、いざ目の当たりにしたことによってルイズは驚きの声をあげる。

「アレク!?」
「お久しぶりでございます、ルイズ様。このような夜半に申し訳ありません」

 アレクは深々と頭を下げながら、一年ぶりに会う少女に挨拶をした。

「っていうことは、そちらの方はやっぱり……」

 恐る恐るといった具合にもう一人の乱入者に目を向けるルイズ。
 彼女の視線の先で、フードが下ろされる。
 そこに見えた顔は、やはりルイズの予想通りの顔であった。
 彼女は慌てて膝をつく。

「姫殿下!」
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」

 アンリエッタは涼しげな声で、輝くような笑顔を浮かべた。
 その一連のやり取りを、サイトはぼけっとしたまま見ている。
 状況が理解できず、どういう行動をとればいいかわからない。
 アレクは笑みを浮かべたまま、そんなサイトの様子を横目で観察するように見ていた。

















「陛下! 太后陛下! どうか今一度お考え直しを!」

 マザリーニは床に跪き、目の前にいる人物―――マリアンヌに懇願した。
 しかし彼女はまるでこの場にマザリーニなどいないかのように、鏡台に向かったまま身じろぎもしない。
 そのマリアンヌの態度に、マザリーニは内心歯ぎしりをする。

 マザリーニがある用件のため、こうしてマリアンヌを訪ねるのは初めてではない。
 アルビオンの内乱が激化し、トリステインも何らかの対策を考えなければならなくなってより行われた会議。
 その議題に上った案件が、急にその場に現れたマリアンヌによって却下されて以来、マザリーニは幾度となく彼女の居室に足を運んでいる。

「太后陛下!」

 重ねてマザリーニはマリアンヌに呼びかける。
 とうとう根負けしたのか、彼女はうんざりとした表情でマザリーニに視線を向け、口を開く。

「マザリーニ枢機卿、もう何度も言っているでしょう? あまり同じことを繰り返すのは好きじゃないの。私の心は変わりません」
「そこを何とか曲げてくださりませ。陛下のお心がお変わりにならなければ、如何ともしがたくなりますゆえ」

 マザリーニの言葉に、マリアンヌは首を振るだけで答える。

「どうか、どうかお願いいたします! 太后陛下!」

 頭を下げたまま何度も繰り返すマザリーニ。
 だが、マリアンヌは彼の意見をきっぱりと切り捨てるように、再度自身の意志を叩きつけた。

「何度言われようと私の心は変わらないわ、マザリーニ枢機卿。我が愛しの娘アンリエッタと、現ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の婚姻は認めません」




















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