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 アレクがアンリエッタと出会い1年が過ぎた頃、彼は一人の少女と出会う。
 トリステインで最も有力な貴族といえるラ・ヴァリエール公爵家。
 その令嬢である、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだ。

 ヴァリエール家は、その家系をたどればトリステイン王家との親戚関係へあたる。
 ゲルマニアとの国境に面する領地はとてつもなく広大であり、領境から屋敷まで馬車で半日も掛かるほどだ。
 そのヴァリエール公爵には三人の娘がいる。
 現在3才のルイズは三女であり、8つになったアレクとは5つ違い、4つになったアンリエッタとは1つ違いである。

 そのルイズは今両親と連れ添い、従者の一人に抱かれアンリエッタと面会をしていた。
 アレクはアンリエッタの背後に控えている。
 桃色がかったブロンドを伸ばし、鳶色の瞳をキョトンとさせこちらを見ていた。
 ヴァリエール公爵が、正面に座っているアンリエッタへ近づき声をかける。

「お久しぶりです、アンリエッタ殿下。お覚えになられているでしょうか、ヴァリエールにございます」
「はい」

 アンリエッタが最後にヴァリエール公爵と会ったのは、まだ彼女が生まれたばかりのことである。
 本当に覚えているはずもないが、アンリエッタはとりあえず肯定をした。

「おお、そうですか。殿下は聡明なお方でらっしゃいますなぁ」

 おそらく覚えていないだろうと分かってはいるが、ヴァリエール公爵は微笑みアンリエッタを褒める。
 アンリエッタは「聡明」という言葉が何を指しているか分からないが、ヴァリエール公爵の声色と表情からおそらく褒められたのだろうと判断し、嬉しそうに笑った。
 そんなアンリエッタの様子に、さらに笑みを深めるヴァリエール公爵。

「今日は私の娘を紹介したく、連れて参りました」

 ヴァリエール公爵は後ろを向き、従者へ目配せした。
 従者はそれを受け、その腕に抱いているルイズを降ろす。
 ヴァリエール公爵が手招きをすると、ルイズは父親の方へトコトコと近づいていく。

「これが私の娘のルイズです。ルイズ、殿下へご挨拶なさい」
「ルイズ……です」

 ルイズは初めヴァリエール公爵の後ろに隠れていたが、父親に促されると、おずおずと出てきてペコリとお辞儀をした。
 そんなルイズの様子を興味津々に見ているアンリエッタ。

「では私は陛下へ謁見して参りますので、どうか我が娘にお相手を務めさせて頂けますかな?」
「ええ」

 ヴァリエール公爵の言葉にアンリエッタは嬉しそうに頷く。
 ルイズは初めての場所で少々不安そうな面持ちだが、父であるヴァリエール公爵が「大丈夫だ」と言い頭を撫でると、多少落ち着いた態度になる。
 それに満足そうにして、ヴァリエール公爵は妻と共に出ていこうとする―――と、アレクをチラリと見ると、顎をクイッと動かした。

 それを受けアレクはヴァリエール公爵の元へ歩み寄っていく。
 数人の従者を残し、ヴァリエール公爵と夫人、そしてアレクは部屋を出る。
 従者がドアを閉めると、アレクはそこへ跪きヴァリエール公爵の言葉を待った。
 彼は少しの間アレクを観察していたが、それを終えると声をかける。

「君は?」
「はっ! アンリエッタ様の従者の末席に加えさせて頂いている、アレクサンドルと申します」

 そのアレクの言葉に、ヴァリエール公爵は何かを思い出そうと顎に手をやり考え込む。
 しばらくそうしていると、ハッとしてアレクを見やり声をかける。

「もしかして君はサン・テグジュペリ元伯爵の……」
「息子にございます」
「おお、やはりそうか。どうりでどこかで見たような気がしたのだ」

 アレクは一度ヴァリエール公爵と会ったことがある。
 まだ彼が2才の頃、父と共に国王へ挨拶に王宮へ来たときに、たまたま所用で王宮へ来ていたヴァリエール公爵と対面した。
 既に8才となった彼はその頃とは大分顔形が変わっているが、どこかしらにある面影と、父譲りの青い瞳、母譲りの黒い髪から連想したのだろう。

「そうか……父君があのような目に遭ってしまい、君も大変だったと思う。しかし元気そうでなによりだ」
「もったいなきお言葉でございます」

 心の底からアレクの父のことを残念に思っている様子、そして彼が元気であったこと本当に喜んでいるようなヴァリエール公爵の言葉。
 アレクはそれに感謝し深く頭を下げる。
 ヴァリエール公爵はそんな年齢不相応なアレクの様子に、これまでの苦労を察すると共に、感心する風でもあった。
 それはそうと、とヴァリエール公爵はアレクに話しかける。

「君は今は殿下の従者を務めているのだね?」
「はっ、この身に余りある名誉ではありますが」
「ということは、これからは私の娘とよく顔を会わせるわけだ」
「そのような機会も多いかと」

 ヴァリエール公爵が何を言わんとしているか分からないアレクは、少々戸惑い気味の様子で受け答えをする。
 何やらヴァリエール公爵から圧力がかかってくる感じに、アレクは内心冷や汗をかく。
 そんなアレクの様子に頓着せず、ヴァリエール公爵はグッと威圧感を強め、言い放つ。

「よいか? くれぐれも、くれぐれもルイズに何もないようにしたまえ」

 その言葉に力が抜けそうになるが、彼からの威圧がそうはさせてくれない。
 それはまさに公爵という地位に値する者の迫力であった。
 というか、それより―――。

(奥さん怖っ!!!)

 ヴァリエール夫人の眼差しがハンパない。
 夫の公爵よりも凄まじい。
 おそらくルイズの髪色はこの人からの遺伝なのだろう。
 桃色がかったブロンドに実年齢を窺わせない怜悧な美貌。
 その美貌を引き立てる切れ長な目が、今は心底恐ろしい。

 夫人の名前はカリーヌ・デジレ。
 アレクは知らないことだが、彼女は先代マンティコア隊隊長で「風」のスクウェアメイジだ。
 二つ名に「烈風」を冠し、かつては数々の武勲をうち立てた、生きる伝説のような人物である。
 ハルケギニア最強のメイジといっても過言ではないだろう。

 そんな彼女の強い眼差しにあてられているアレクはもうたまったものではない。
 二人の顔を見ようと顔を上げることすらできない。

(親ばかなのか……?)

 おそらくそうなのだろう、とあたりをつける。
 末娘ということもあり、二人にとってルイズは可愛くてしかたがないのだろう。
 とはいえこのまま何も答えないのは拙い。
 アレクは気力を振り絞り顔を上げ、なんとか声を出す。

「し、しかと承りました……」

 アレクの言葉に満足そうな笑みを浮かべるヴァリエール公爵。
 夫人の表情は変わらないが、突き刺すような目つきではなくなった。
 その二人の様子に、ホッと息を吐くアレク。

「では、頼んだぞ」

 そう言うと二人は歩き去っていった。
 アレクはその姿が見えなくなるまで、そこで見送る。
 二人の姿が見えなくなると、アレクの体は崩れ落ち、床に手をつく。

「普通見た目8つの子供にあんな目向けるかぁ……?」

 はぁ、とため息を吐く。
 安心して体に力が入らない。
 しばらくそうして、なんとか体が元通りになると、アレクは扉を開け部屋へ入る。

 中ではアンリエッタとルイズが仲良さそうに遊んでいた。
 どうやらすぐにうち解けたようだ。
 アンリエッタがアレクに気づき駆け寄ってくる。

「アレク!」

 抱きついてくるアンリエッタを、ボフッと受け止める。
 ルイズはその場に立ち、アレクを観察するように見ていた。
 そんなルイズに声をかけるアンリエッタ。

「ルイズ! こっちに来なさい、アレクよ」

 アンリエッタの呼びかけに、おそるおそる近づいてくる。
 アレクはルイズの目線に会わせるようにかがみ込み、声をかける。

「初めましてルイズ様。アレクサンドルといいます。アレクとお呼び下さい」
「……アレク」

 ポツリとアレクの名を呟くルイズ。
 そんな彼女に、アレクは笑いかけ頭を撫でた。
 それにルイズは初め戸惑っていたが、一度チラリとアレクを見上げると、大人しくされるがままとなる。
 アンリエッタその様子に嬉しそうに笑い、二人を引っ張る。

「アレクも一緒に遊びましょ!」

 アレクは微笑み、ルイズはコクリと頷き、アンリエッタに引っ張られていく。
 これを機に、宮廷ではよく3人が連れ立って遊ぶのを見かけることが多くなった。

















 ルイズと初めて会い、7年が経った。
 初めのうちは比較的大人しかったルイズだが、慣れてくればそのやんちゃぶりはアンリエッタ以上であった。
 今でもアンリエッタとルイズの交友は続いており、アレクも一緒に付き合っている。
 7年間の間様々なことがあった。





 アレクが10才、アンリエッタが6才、ルイズが5才の頃。
 いつもの通り遊び回り、現在はおやつの時間。
 アンリエッタとルイズは並んで座り、ふわふわのシュークリームをおいしそうに食べている。

 アレクは少し離れたところに立っている。
 食べている間は大人しくしているな、と考え自分も少し休憩中。
 しかしどうやらシュークリームの数が足らないらしく、すでに無くなりつつある。
 今二人は一つずつ食べていて、さらには後一つ残っているだけだ。

「もう少し貰ってきますね」

 夢中でシュークリームを食べている二人に声をかけ、部屋を出るアレク。
 近くにいたメイドに言い、追加のシュークリームを持って部屋へ戻る。
 その帰り道で、ラ・ポルトと会った。

「これは、ラ・ポルト様」
「お二人はどうなさっている?」

 礼をするアレクを制し、ラ・ポルトは質問をする。

「今は大人しくおやつを召し上がっています」
「そうか、その間だけはじっとしているからな」

 ラ・ポルトと話しながらアンリエッタの私室へ向かう。
 アレクは扉を開き横へ退き、彼を先に入室させた。
 ラ・ポルトが部屋へ入る―――と同時に、彼の叫び声が聞こえる。

「ど、どうされました殿下!?」

 その声に何事かと、彼の後ろから中を覗くアレク。
 部屋の中には、椅子に座っておいしそうにシュークリームを食べているルイズ。
 そしてそのすぐ横の床に項垂れ、シクシクと泣いているアンリエッタ。
 テーブルの上の皿やカップはぐちゃぐちゃになっていた。

 どうにかして泣いているアンリエッタを慰め、ことの顛末を聞くと、アレクとラ・ポルトは呆れかえった。
 どうやら最後の一つになったシュークリームをどちらが食べるか揉めたようだ。
 初めは言い合いだけだったが、そのうちエスカレートしてつかみ合いになったらしい。
 そしてアンリエッタが負けシュークリームはルイズに奪われ、テーブルの上は荒れ果てた。

(ちょっと目を離した隙に……)

 アレクはため息を吐く。
 隣のラ・ポルトはプルプルと震えている。
 それを見たアレクが「ああ、こりゃ説教だな」と思った瞬間、ラ・ポルトは爆発した。
 アンリエッタとルイズは並んで座らせれ、その後延々と説教をされた。





 アレクが12才、アンリエッタが8才、ルイズが7才の頃。
 いつものように3人はアンリエッタの自室で遊び。
 いつものようにアンリエッタとルイズはつかみ合いをしていた。

 今日は「宮廷ごっこ」をすることになった。
 もちろん「宮廷」なのだからお姫様がいる。
 問題はそのお姫様役をどちらがやるかということだ。
 二人とも「お姫様がいい」と言い、譲らない。

 先ほどからアレクは止めようとしているのだが、どうにもおさまる様子がない。
 二人してドレスを引っ張り合い続けている。
 どうしたものか、とアレクが困り果てていると。

「えいっ!」
「あうっ!?」

 アンリエッタのリバーブローがいい具合にルイズに決まる。
 崩れ落ちるルイズ。
 そのままピクリとも動かない。

「やりました、アレク! 勝ちましたわ!」

 そう言い胸を張るアンリエッタ。
 とても誇らしげだ。
 こういうことではルイズに負けてばかりだったので、珍しく勝ったのが本当に嬉しいのだろう。

「ちょ……! 「勝ちましたわ!」じゃないでしょう!? ルイズ様気絶してるじゃないですか!」

 アレクは慌ててルイズに駆け寄る。
 少し体を揺らしてみるが、起きる様子はない。
 完璧に気絶している。

「お二人とも、ご機嫌はいかがですかな? って、今度は一体何を!?」

 そこへタイミング悪く現れるラ・ポルト。
 初めはにこやかだった顔が、中の惨状を見ると途端に険しくなる。
 あちゃあ、と顔を押さえるアレク。
 ビクリと肩をふるわせるアンリエッタ。

「あなた方は……まったく……!」

 そしていつもの通りお説教。
 目が覚めたルイズは状況を理解する間もなくお説教である。
 今回は珍しく、その場にいて止められなかったアレクも一緒だ。
 3人そろって座らせられ、ラ・ポルトの説教を聞くのであった。

 この出来事は後に、アンリエッタとルイズの二人によって《アミアンの包囲戦》と名付けられた。





 そして現在、アレクが15才、アンリエッタが11才、ルイズが10才。
 今日はルイズと遊ぶことができない。
 ならば遠乗りに出かけたいとアンリエッタが言いだした。
 それを受け数名の騎士を伴い遠乗りへと出かけたその日。

 ある事件が起きた。




















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