第14話 「目的」
6人へ向かってくる50もの魔物。
それらに対し、おのおの武器を構える。
アスタスは手に赤に光りを纏わせ、フリオは弓を構えた。
クレアはグレイブを、グレイはハルバートをそれぞれ両手に持つ。
レオンは両腰の剣を抜き放ち、流石にこの状況で闘わないのは無理だと思ったのか、悠司もバットを取り出す。
アスタスは囲むように近づいてくる魔物を、グルリと見回す。
それを見て「面倒だな」と呟くと、彼は隣に立つフリオへ声をかけた。
「やってくれ」
その言葉に頷き、弓を上に向け、弦を引っ張るフリオ。
しかしそこには矢は番えられていない。
アスタスとフリオを除く4人がそれに不思議そうな顔をすると、フリオがポツリと呟いた。
「sagitta」
するとフリオの弓に青白い光りが集まり、矢の形をつくる。
それが終わると彼はもう一度何かを呟く。
「sagittare」
その言葉と共に、天井へ向かって青白い矢が解き放たれる。
それは10mほど上がると幾重にも分かれ、周りの魔物へ向かって雨のように降り注ぐ。
フリオによって放たれた矢は周囲の魔物のほとんどにダメージを与えた。
しかし一部分の魔物には傷を負わすことができていない。
「やっかいだな……」
ダメージがない魔物達を見て、舌打ちをするフリオ。
その視線の先には3体のビホルダーがいる。
ビホルダーはその体にある目から術を無効化する結界を出し、体を守っていた。
その後ろには数体の魔物がビホルダーの体を盾にして、矢を食らうのをさけている。
「先に片づけた方が良さそうだな」
アスタスをそう言うと、他の4人に目を向ける。
「クレア君とグレイ君、それと……ユージ君。君らでビホルダーを片づけてきてくれ」
「おれもですか?」
まさか自分にも指名がくるとは思わなかった悠司は、思わず聞き返した。
「ああ。私とフリオは術を使用しての攻撃がメインなので、相性が悪い。格闘戦が強い君たちの方が向いているだろう。アレを取り除くことができれば、広範囲の攻撃ができる」
「でも……」
「君らは連携して闘うのは苦手だろう? レオン君はそうでもないようなのでね」
たしかに悠司は集団で協力して戦闘したことはない。
というよりまともな戦闘経験もなく、しかも自分の力も思うように使えないので、まだ個人で闘った方がましだろう。
人狼姉弟にしても、二人のコンビならばともかく、他の人間と協力して闘うのが得意なようにも見えない。
ここまでの戦闘を見てきてそう判断したアスタスは、3人に向かって1人1体ずつ倒してくるように頼んだ。
「ふん、頼まれてやらぁ」
「りょーかい」
「……わかりました」
グレイは偉そうに、クレアは軽く、悠司は少し逡巡しながら頷いた。
3人はバラバラにビホルダーへと向かっていく。
「っと」
向かう途中に何度も他の魔物に攻撃されるが、何とかそれを避けつつ近づいていく。
ビホルダーまであと数mといったところで、悠司の目の前に巨大な影が立ちふさがった。
身の丈3mを越す牛頭の怪物、ミノタウロスだ。
ミノタウロスは手に持つ巨大な斧を振りかぶり、悠司に叩きつける。
「あぶっ!」
ぎりぎりで避ける悠司。
ミノタウロスは特殊な能力はないが、見た目通り力が強く耐久力もあり、動きも素早い。
それらの点では悠司も劣ってないが、うまく力を使いこなせない彼には少々分が悪いといえる。
ビホルダーはミノタウロスを挟んで、悠司の反対側にいる。
何とかこれをかわしてビホルダーを倒さなければならないが難しい。
アスタス達は何とか持ちこたえているが、早めに倒さなければならない。
どうしようかと悩む悠司。
「一か八か、かな……」
そう言い悠司は腰を落とし前のめりの体勢になる。
多少攻撃を食らう覚悟でミノタウロスをぬこうという考えだ。
地を力強く蹴りミノタウロスへ突っ込む。
「てい」
ミノタウロスへ向かいバットを叩きつける。
それはミノタウロスの脇腹へ当たり、鈍い音がする。
多少よろけるがそれ程効いた様子もない。
しかし何とか動きを鈍らせることはできたので、その隙に横を駆け抜けようとする。
「ぐっ!」
しかしミノタウロスの真横辺りまで来たところ、その斧が襲いかかり腹へ受けてしまう。
持ち前のタフネスにより致命的なダメージはないが、吹き飛ばされ息が詰まる。
腹を押さえながら後ろへ転がる悠司。
「けほっけほっ、あ〜……苦し」
3mほど離れたところで止まり、咳をしてミノタウロスを見据える。
何度もやられると辛いな、と考えるが、他にやりようもない。
幸いにして他の魔物が襲いかかってくる様子はないが、そう手間取ることはできない。
今度は斧をもらう覚悟で、もう一度突っ込む。
正面からミノタウロスへかかっていく悠司。
彼へ向かい斧が振り下ろされる。
悠司はそれをバットで受ける。
真っ正直に受けたためバットはくの字にへこむ。
まさか自分の斧がまともに受けきられるとは思っても見なかったのか、ミノタウロスは多少怯んだ。
僅かに力が弱まった隙に、悠司は足に力を込め思いっきり斧ごとバットを持ち上げる。
ミノタウロスの体がふわりと持ち上がり、後ろへと倒れ込む。
悠司はそれを飛び越えビホルダーへ襲いかかろうとする―――
「おおう!」
―――と、ビホルダーの突起から悠司へ向かい光線が発射された。
間一髪でそれを避ける。
「ヴモォォォォォ!!」
後ろからうなり声が聞こえる。
悠司が振り向くと、そこにはミノタウロスが立ち上がり、こちらへ斧を振り下ろそうとしていた。
冷や汗をかきながらそれを何とか避ける。
「ギェェェェェ!!!」
するとその斧はビホルダーへ当たり、真っ二つにしてしまう。
「グロイ……」
目の前でビホルダーの中身を見せられた悠司は気味悪そうに呟く。
まぁ何にせよラッキーだ、と思い仲間の元へ戻ろうとする悠司。
後ろミノタウロスが鳴いているが、怖いので振り向かない。
アスタス達の元へたどり着くと、既にそこにはクレアとグレイがいた。
どうやら悠司が一番最後だったらしい。
二人とも多少傷を負っているが、それほど苦戦した様子もない。
流石だな、と悠司が感心していると、アスタスに声をかけられた。
「ご苦労さま、ユージ君。では、フリオ」
「ああ」
アスタスの声に頷くと、先ほどのように上へ向かい矢を放つフリオ。
アスタスは両手に光りを灯らせ、それを空気をかき分けるように振る。
それらは矢の雨と炎の壁となり、周囲の魔物へ襲いかかった。
「すげぇな……」
「さすがだねぇ……」
レオンとクレアが感嘆の声をあげる。
攻撃によって起こった煙がはれると、そこには屍縷々とした光景が広がっていた。
50体いた魔物はこの攻撃により、10体以下まで数を減らしている。
さらにそれらも軽くない怪我を負い、満身創痍といった具合だ。
「後は適当に片づけりゃあいいな」
「ああ、二人は休んでいてくれ」
グレイが舌なめずりをしながらハルバートを構えた。
レオンは大規模攻撃で疲れた様子のアスタスとフリオに声をかけ、剣を握り直す。
「そうだな、後は頼んだ」
そう言い座り込むアスタス。
その言葉を受け掃討を開始する。
既にまともな状態の魔物はいなかったため、30分とかからずに終わった。
「馬鹿な!? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?」
まさか負けるとは思っても見なかったラグは取り乱す。
半ば半狂乱になり叫んでいるラグへ近づき、声をかけるアスタス。
「では着いてきてもらうぞ、何故こんなことをしたのかは町に着いてから話してもらう」
アスタスはそう言いラグへ手を伸ばす。
ラグはその手を振り払う。
そして彼はアスタスを睨み付けた。
「うるさい! もう少しで終わるんじゃ! 後はあ奴がアレを回収してくれば!」
ぎりぎりと歯を食いしばりながらそう言うラグ。
6人にはそれが何のことだか分からない。
「何のことだがわからんが、早く立て」
アスタスは座り込んでいるラグの腕を掴み、無理矢理立たせる。
「ええい! 離せ離せ! 2年かかってここを解析し終わり、ようやくアレの出し方が分かったというのに! 何故貴様等なんぞに邪魔されねばならん!?」
「何言ってんだこいつは?」
叫き散らすラグに、わけわからんという顔をするグレイ。
クレアやレオンは「さぁ?」と言い肩をすくめる。
悠司は少し嫌な予感がした。
「なぁラグ、あんたもしかしてガルサースにいたことがあるのか?」
悠司はその予感が気になりラグへ質問する。
ラグはその声に悠司の方へ顔を向ける。
「そうだが……何故貴様がそんなことを……」
そこまで言うと、ラグは何かに気づいたようにハッとする。
「まさか、貴様知っているのか……」
驚愕の眼差しを悠司へ向けるラグ。
「貴様……っ! 貴様には渡さんぞ! アレは錬金術師の至宝だ! 私が見付けたモノだ! 貴様なんぞにっ!!」
その言葉に悠司は自分の考えが当たっていたことを覚る。
悠司は振り返り、出口へ向かって駆けだした。
「おいユージ! どうしたんだ!?」
後ろから声をかけられるが、悠司にはそれに反応する余裕がない。
彼の脳裏にここに来て見聞きしたことが思い出される。
―――見たことがあるようなシリンダー。
―――錬金術師。
―――出し方。
―――2年前。
それらの一つ一つが悠司の頭の中で一つの事柄を導き出す。
すなわち―――
―――――リリーが危ない!
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