第12話 「地下探索」










歩くこと約2時間。
悠司達の目の前に石で造られたぼろぼろの壁が見えてきた。
かつては王城の城壁として堅牢な守りを誇っていたそれは、反乱の時に破壊され既にただの石壁となっている。
彼らは壊された一部分から中へ入り城を目指す。

城の跡地は瓦礫の山だった。
おそらく何の予備知識もなければそこが城だったとは分からないだろう。
雑草が生え、壁が風化し、建物は2階以上が崩れてしまっている。
悠司達は周りを観察しながら歩くが、人が隠れることができそうな場所はなかった。

城の中心地点まで来ると、そこからは各自で行動することとなった。
アスタスは「何か発見したら声をあげて他の者を呼ぶように」と言い一人で奥へ入っていった。
一人で行く者、何人かで組む者、三々五々に分かれていく。
悠司はレオンと共に探索をする。

「どこか当てはあんの?」
「いるとしたら地下だろうな。上は何もないし、ここらは他に隠れる場所もないだろう」

問う悠司にレオンはそう答える。
悠司はもっともだと頷き彼と共に地下への入り口を探す。

「しかしボロボロだな、ここ」

辺りを見回し呟くように言う悠司。

「ああ、反乱の時徹底的に破壊されたらしいからな」

ヤッキマ王国が行っていた人体実験の対象の多くは、平民と周辺に住む亜人達であった。
そのため彼らは結託し、王家に対しクーデターを起こしたのだ。
反乱に参加した彼らは王家の象徴ともいえるこの城を徹底的に破壊した。
その結果この城は建物としての様相を呈しないほどにボロボロになっている。

「もう滅んでから600年経ってるし」

そう言うレオンに悠司は質問をする。

「人体実験って具体的に何をしたんだ?」

オレも詳しくは知らないんだが、と前置きしてレオンは話し出す。

「たしか死ににくい兵隊の開発だったはずだ」
「死ににくい兵隊?」
「ああ、不死身の軍隊とかいうやつだ」

ヤッキマ王国最後の王バートラムは野心の強い王だった。
彼は自分の国の国土をさらに広めんと、軍隊の強化に力を入れていた。
そんな彼は初め人を強化させる薬の開発を行っていたらしい。
しかしそれにも限界があり、さらに強い者をと思い最終的に手を出したのが人体の改造だった。
死ににくい人間の軍隊をつくることを目的としていたようだ。

「バートラム自身も不老不死を目指してたって話を聞いたこともある」
(地位と権力を持った者の最後に目指すのは不老不死っていうお約束だな)

レオンの言葉に悠司はそう考える。

「あと魔物の研究もしてたらしい」

レオンが言うには、バートラムは一時期魔物を自由に操作する術を研究してたらしい。
野生の魔物を飼い慣らす方法や、人の言うことを聞く魔物を人工的に生み出そうとしていた。
確かに魔物はその多くが人より強い力を持っているため、操作できれば人の軍隊よりかなり強力な集団ができるだろう。

「まぁどっちも結果を見る前に滅ぼされたんだけどな」

レオンはそう締めくくった。
しばらくあちこち歩いていると、二人の目の前に階段らしきものが見えた。
二人はそれに近づいていく。
その階段には瓦礫が入り口を塞ぐように覆っていた。

「下に続いてるみたいだ」

レオンが階段をのぞき込みながら言う。
二人は瓦礫を撤去し、中へと入っていく。
普通の建物の二階分ほど降りると、開けた場所に着いた。
二人は辺りを見回しながら奥へと入っていく。

「ここは?」
「牢屋……だな」

奥には石造りの部屋がいくつもあった。
ボロボロの鉄格子がはまった無機質な部屋の数々。
壁や天井が壊れてしまっているが、そこはかつて牢屋だったとわかる様相をしている。
悠司達が牢屋を見ていると、二人が降りてきた方向と反対側から足音が聞こえてきた。
通路の奥に二人の物陰が見える。

「おや? ユージじゃないか」
「ああ、クレアとグレイか」

その物陰は人狼の姉弟だった。
クレアは笑顔を向けるが、グレイはそっぽを向いている。
二人の人狼に親しげに挨拶する悠司にレオンは不思議そうな顔を向けた。

「ユージ、知り合いだったのか?」
「お前が来る前に少し話した」
「ああ、朝か」

そういえば誰かと話してたな、と頷くレオン。
悠司は姉弟に向き直り話しかける。

「二人はどうしてここに?」
「ん? やっぱ隠れるなら地下かな……っと、どうやら皆考えることは同じみたいだね」

クレアが話し始めると、姉弟の後ろと悠司達の後ろの両方から足音が聞こえた。
姉弟は後ろを振り向く。
悠司とレオンもそれに倣い後ろを振り向いた。

クレアたちの後ろからはアスタスを筆頭に、数人の男が降りてくる。
悠司たちの後ろからはフリオが先頭に降りてきた。
ここに来た全員がこの場所へ集まってきたようだ。
クレアはアスタスへ話しかける。

「アスタスさん、他はどうだったんだい?」
「いや、どうも隠れていそうな場所はなかった。おそらくここが最後だろう」

他の面々も頷いている。
どうやら他の場所は探しつくしたようでここが最後になったらしい。
もろもろ分かれてこの地下牢を探索する。

地下牢はそれほど広くないためすぐに探索は終わった。
扉の類は見当たらない。

「ここが潜伏場所ではなかったのか……?」

アスタスは辺りを見回しながら呟く。
すると悠司が降りてきた方向の階段を調べていた者が声を上げる。
全員がそちらへ近づく。

「あった、隠し扉みたいだな」

そこの壁の一部がずれ、さらに下へと行く階段がある。
暗いため奥を覗くことはできない。

「行ってみよう」

そう言いアスタスは階段を降りていく。
全員が続き、悠司は最後尾についていった。

階段は螺旋状になっている。
光が届かないため辺りは真っ暗で、数人が点けている明かりがなければ何も見えない。
もう5分ほど降り続けたが、まだ下へつかなかった。





さらに5分が経つと、ようやく階段が終わった。
彼らの目の前には幅4mほどの回廊が続いている。
いくつも分かれ道があるが、とりあえず真っ直ぐ行き、行き止まりになったら分かれ道へ進むということにした。

「迷路みたいだな、ここは……」

30分ほど経ったところで一人の男が呟いた。
その言葉に他の者も頷く。
何処まで行っても景色が変わらないため、同じ所を歩いているようにしか思えない。
すると急に彼らの前の景色が揺らぐ。

「なんだ……?」

その光景に動揺するが、彼らは素早く武器を取りだし構える。
揺らぎが消えた次の瞬間、そこには10体の魔物が姿を現した。

「どうやって現れたんだ!?」
「攻撃しろ!」

それに驚くがアスタスの声に我のかえり、それぞれが魔物に向かい攻撃する。
剣で斬り、槍で突き、弓で射る。
ほどなくして魔物は全滅した。

「怪我をした者は?」

アスタスは皆を見渡し聞いた。

「ちょっとした怪我をしたのが3人だな」
「治療術を使えるのは?」
「俺とこいつだけだ」
「治療してやってくれ」

この中で治療術を使える2人が怪我人の方へ向かう。
それが終わるのを待ち、先へ進む。

「またか」

しばらく進むとまた彼らの目の前が揺らいだ。
フリオがそういうと先ほどと同じように魔物が姿を現す。

「まぁそう悪いことではあるまい。何もなかった時に比べ、敵に近づいているということだろう」
「そうだがな、方法が分からないのが少し不安だ」

アスタスの励ますような言葉にフリオは不満そうに返す。
着々と魔物を退治していると後ろから声が挙がった。

「こっちにも出たぞ!」
「スライムだ!」

集団の後ろに揺らぎが起こりそこから5体のスライムが現れる。
透明なゲル状の塊のような気味の悪い姿。
最後方にいた悠司はそれを見てそそくさと集団の中程まで引っ込む。

「スライムには通常の武器は効かん! 術を使える者はそっちにあたってくれ!」

そう言い自らもそちらへ向かうアスタス。
スライムには特殊な武器や術のよる攻撃でしかダメージは与えられない。
動きは遅く攻撃方法も体で標的を溶かすしかないスライムだが、狭い場所で逃げるわけにもいかないこの場合はなかなかやっかいな敵だ。

術を使える者が後方へ集まり、それぞれ攻撃を始めた。
アスタスはそこへ着くと右手を掲げ目を瞑り集中する。
すると彼の手から肘までを覆うように赤い光りが灯った。
それを見た悠司は隣にいるレオンに質問する。

「あれ何だ?」
「多分何かの火の術を纏わせてるんだろうな。あの手で攻撃して、標的を燃やしたり溶かしたりするんじゃないか?」
「つまりベルリンの赤い雨だな?」
「ベル……は?」
「ああ……いや、何でもない」

レオンの説明を聞いた悠司は某正義超人の必殺技を例えに出す。
しかしそれはレオンに通じないため、彼は怪訝そうに悠司を見る。
それに悠司は若干残念そうに首を振りため息を吐いた。

そうこうしている内にどうやら戦いは終わったようで、前にも後ろにも何人も腰を下ろしているのが見えた。
どうやら今回は怪我をした者が多く出たらしく、治療術を使える二人が歩き回っている。
その様を見ていたアスタスにフリオが話しかけた。

「治療術を使える者は二人しかいないんだし、ここで力を多く使わせるのはまずいんじゃないか?」
「ふむ……」

少し考えると、一つ頷き声を出すアスタス。

「そうだな、大きめの怪我をした者はとりあえず一人で歩ける程度に回復させて、先に戻っていてもらうか」

アスタスはそう言うと、その旨を皆に伝える。
怪我をしていた者はそれに不満そうに返すが、事情を説明すると、他の者の負担になると理解して黙った。
術師の男と槍を使う男の二人が比較的重い怪我のようだ。

「じゃあ二人は悪いが先に戻ってくれ。一応念のため一人一緒に帰ってもらいたいが、誰か頼めるか?」

今のところは集団が進むと魔物が出てくるようだが、まだ二回のため今後も必ずそうなるとは限らない。
もしかするとただランダムに出てくるものにたまたま遭遇しているだけかもしれないので、二人が帰る道に出るかもしれないのだ。
そう心配し、誰か護衛として一人着いていくように頼むアスタス。

すると一人の男が手を挙げる。
その男はいつも術師の男と組んで仕事をするため、相方がリタイアするならと言い、二人と一緒に帰ることを決めたようだ。
アスタスはそれに頷くと周りへ声をかける。

「では他の者は先へと進もう。今後も怪我するようならば、帰ってもらうことになるかもしれんので、気をつけてくれ」

この迷路がどの程度続くか分からない。
また、ここが本当に襲撃犯の住処という保証もない。
もしかしたらさらに何時間も進まなければいけないのかもしれないし、無駄足ということも有り得る。
しかし先へ行かないわけにもいかない。

最終的に何人残るか分からないが、多いければ多いほど良いだろう。
全員そのことは分かっているため、より気を引き締めて先へ進むのであった。




















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