第15話 「リリー誘拐」










町を出た時は早朝だったが、既に辺りは暗やみにつつまれている。
3時間をかけ悠司は自分の家へたどり着いた。
そこで彼が見たものは、ボロボロになった屋敷と、玄関ホールに倒れ込んでいるユーリィの姿。
悠司はユーリィへ駆け寄り、その体を抱き起こす。

「ユーリィ、大丈夫か?」

その悠司の声にユーリィは薄目を開けた。
どうやら気絶していたらしく、ぼんやりとした眼差しを悠司へ向ける。
しばらくすると目の前にいるのが悠司だと分かったらしく、若干震える声で悠司へ口を開き始めた。

「ユージ……リリーが……」
「ああ、何があった?」

落ち着かせるように柔らかい口調でユーリィに聞く悠司。
そのおかげで多少気を落ち着かせることができたのか、さっきよりもはっきりとした様子でユーリィは話し始めた。

「ええ……リリーと二人で夕食を取ろうと思っていたら……」

















「ユージは遅くなりそうだから、先に夕飯を食べてしまいましょうか?」
「うーん……はい」

日が落ち夕飯時になっても悠司が帰ってこないため、今回は遅くなりそうだと判断したユーリィは、先に食べておこうとリリーへ提案する。
多少逡巡したものの、リリーも空腹なのか、その提案に賛成をした。
そうと決まれば、早速ショック道へ向かう。

二人が食堂で夕食の準備をしていると、玄関が開く音がした。
悠司が予想より早く帰ってきたかと思い、出迎えをするために玄関へ向かう。
しかしそこにいたのは、黒ずくめの格好をした見慣れない30半ばであろう年の男。
その男は二人を見ると、不思議そうな顔をした。

「おや、ここには人は住んでいなかったはずだが」

男はそう言い顎に手を当て考え始める。
あらかさまに不審な男に、ユーリィはリリーを後ろに庇い、男に向かって声をかける。

「どちら様ですか?」
「ん? ああ、すまない。私のことは気にしないでくれたまえ、ちょっと捜し物に来ただけだから」
「気にするなというほうが無理です。人の家に勝手に入ってきて、どういうつもりですか?」

男はその言葉にまた少し考え、ユーリィに質問する。

「私が聞いたところでは、ここには誰も住んでいなかったはずだが。あなたはいつ頃からここに?」

質問に質問で返す男に、ユーリィは少し不愉快な表情になるが、律儀に返す。

「ここは私の家ではありません、知人の家です。少し前に知人が正式に手に入れた物です」
「その知人というのは……おや?」

男は何かに気づいたような声を出す。
その視線はユーリィの後ろに隠れているリリーへ注がれている。
リリーはその視線から逃れようと、さらに身を隠す。

「んん〜?」
「何なんですか?」

また何やら考え出す男に、今度ははっきりと不愉快な声色で問うユーリィ。
男は勿体ぶるように口をゆっくりと開く。

「いや〜ね、何というか……」
「用がないのならさっさと出ていってください」

はっきりしない様子の男に、ユーリィはイライラしている。

「ああ、ごめん。なんというか……何で君出てるの?」

しっかりとリリーを指さし、男は言う。
ユーリィはそれに嫌な予感がして、警戒心を増す。

(出てる? まさか……この人リリーのことを知ってる?)

眉をひそめる。
もしそうだとしたら拙いことになるのだ。
リリーはホムンクルス。
一級の古代遺産だ。

あの男が何者かは分からないが、もしリリーのことが公になったら拙い。
自身や悠司は罰を受け、リリーは研究対象として連れて行かれてしまう。
とりあえず男が何者で、何を知っているかをはっきりさせなければならない。

「出てるというのは?」
「何故だ?」

男はユーリィの質問を聞いていない。
一人考え続けている。
自分の質問を無視されたユーリィはむっとなり、男に突っかかる。

「ちょっと、質問に……」
「ああ! なるほど!」

不意に大きな声を出した男に遮られる。
男は「なるほどなるほど」と繰り返し、しきりに頷いていた。
しばらく呆然とその様を見ていると、男は急にユーリィの方へ向く。

「君の知人というのは悠司君のことだね?」
「なっ……!?」
「ああ、当たったみたいだ」

嬉しそうに笑う男。
ユーリィはわけが分からない。
急に現れ捜し物をしているという。
その人物はリリーのことを知っていて、さらに悠司のことも知っているようだ。

「さて」

男は笑いを止め、リリーを見据える。

「一緒に来てもらおうか、ホムンクルス君。私がラグ君から受けた頼みは、君をアレから出すことと、彼の元へ連れて行くことだ」

そう言い放つ男に、ユーリィは完全に敵意を顕わにする。
そして精神を集中させ、いつでも攻撃できるように両手に精霊を集める。

「ふむ、抵抗するのかね。仕方ない。」

男の周りに黒い何かがまとわりつく。
それは巨大な魔力の奔流。
それを見たユーリィは、男が自分よりも高位の術師だと分かり息をのむ。

「もう一度言おう。一緒に来てもらおうか、ホムンクルス君?」

それに対する返礼は、何十もの風の矢。
ユーリィが両手に集めていた精霊を放った物だ。
それらは男に襲いかかり、さらに壁にもぶちあたり玄関ホールを盛大に破壊し、煙が立ちこめる。

「あれ!? 防ぐと思ったのに!?」

その破壊跡に慌てるユーリィ。
男が術で防ぐと思っていたので、思いっきり打ったのだが、予想外に何もしなかったので驚く。

「ああ……ユージに怒られるかも……っと、それより死んでないわよね?」

どきどきしながら風を操り、煙をはらす。
しかしそこには何もいなかった。

「きゃっ!?」

後ろでリリーが悲鳴を上げる。
何事かとユーリィが振り向くと、そこにはいつの間に移動したのか、男がリリーを抱えていた。

「いや、いきなり打ってくるとは思っていなかったので、少し驚いたよ」

男は埃一つかぶっていない。

「いつの間に!?」

ユーリィは驚愕しつつもリリーを取り返そうと、男に飛びかかる。
しかしまたもや男の姿は消えていた。

「どこに……」
「まぁとりあえず寝ていたまえ」

ユーリィの真後ろから声がかけられる。
それに反応し、後ろを振り向く―――前に、ユーリィの体に電気が流された。
バチッと音がして、ユーリィは崩れ落ちる。

男に抱えられているリリーは眠っているようだ。
ユーリィは彼女を取り返そうと手を伸ばすが、力が入らない。
男は何かを呟くとマントを翻した。
するとそこからリリー諸共、男の姿が消える。
そこでユーリィの意識は途絶えた。

















「……ってことなんだけど、ユージあの男のこと知ってるの?」
「心当たりはないな」

しばらく考えてみるが、やはり思いつかないので諦めた。

「そいつは「ラグに頼まれた」って言ってたんだよな? んじゃ追ってみるわ」

どうやらユーリィはそう心配するような怪我などはしていないため、悠司は早速リリーの元へ向かおうとした。
すると外から聞き覚えのある声が聞こえる。

「どうしたんですか、これ?」

ひょこりと顔を出したのはアネットであった。
彼女は玄関ホールの惨状を驚いた表情で見ながら入ってくる。
その手には大きな箱を抱えながら。

「アネットさん、どうかしたんですか?」
「こんばんわ、ユージさん。これお裾分けに持ってきたんですけど……何かあったんですか?」

アネット持っている箱の中身はリンゴだった。
教会へと貰ったらしいのだが、多すぎたので分けに来たらしい。
この状況を聞くアネットだが、悠司はどう話した物か悩む。
ごまかそうかしばらく悩むが、そのうち面倒になりそのまま話すことにした。

「私も行きます」

話を聞いたアネットの第一声がそれである。
悠司は彼女を連れて行くのに気が進まず「やっぱ適当にごまかせばよかったか?」と思っていたが、彼女にそんな嘘が通じたかどうかは分からない。
なんとか説得しようと試みるが、彼女は頑として聞かなかった。

「分かりました……一緒に行きましょう」
「はい」

ため息を吐きつつ言う悠司に、笑顔で応えるアネット。
二人が行こうとすると、後ろから声をかけられる。

「どこにいるか知ってるなら、私もいくわよ」

ユーリィが立ち上がる。

「いや、お前大丈夫なのか?」
「怪我らしい怪我なんていてないわ」
「ん〜でもなぁ……まぁいいか」

初めは説得しようとした悠司だが、ユーリィが睨み付けるとすぐさま了承した。
そして悠司を戦闘に3人は駆け出す。
ユーリィが悠司に声をかける。

「どこにいるか分かってるの?」
「ああ、その男は「ラグ」って言ってたんだろ? そいつ丁度今日の仕事で捕まえたんだよ」
「じゃあ、あの事件の犯人? あの男も共犯者なのかしら?」
「かもね」

そんなことを話していると、悠司はこれから向かう先に仕事仲間の5人がいることを思い出した。
もしかするとおれ達行く意味ないかも、と考えつつ走る。
先ほどより一名気が楽にはなっているが、3人は急いでリリーの元へ向かうのであった。
















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